時代を超える「本流の文化」:不易流行とモノづくり
「不易流行」という考え方は、変化する時代においても変わらぬ価値を見出す力を意味します。
今、モノづくりを単なる消費社会の中に埋没させるのではなく、
正しい生産社会への回帰を目指す姿勢が求められています。
人と自然との調和を基盤とした、時代、環境、価値観の移り変わりを包含する普遍的な文化の営みとして、過去から未来へと受け継がれるべき「本流」の存在。
豊かな工芸社会の実現こそが日本の文化を支え続けるとともに、
世界に向けた本質的な価値を提示しうるのです。
限りある資源を大切にする日本の精神
限りある資源を無駄にしない。それは、日本人の自然観や宗教観と深く結びついています。
八百万の神々を祀る神道では、万物に命が宿るとされ、
日本人は自然から得られるすべてのものを「借りている存在」として捉えています。
この考えは、日常生活にも表れています。
たとえば、「いただきます」や「ごちそうさま」という言葉には、
食物の命やそれを育てた自然への感謝が込められています。
また、「もったいない」という価値観は、物を無駄にしないだけでなく、
活かし切る、循環の中に戻すことを重視しています。
伝統文化においても、限られた素材や空間を最大限に活用する工夫が随所に見られます。
こうした考え方は、現代の環境問題や資源の枯渇に対する示唆を与え、
持続可能な未来へのヒントとなるでしょう。
外来文化を取り入れた日本の独自性
日本という島国は、古来よりその地理的特性を活かし、
多くの外来文化や技術を柔軟に受け入れつつ、それらを独自に昇華させてきました。
仏教や漢字といった宗教・言語的な要素から、茶道や陶芸のような芸術文化に至るまで、
元は大陸から伝来したものが、日本独自の価値観や美意識のもとで発展を遂げています。
たとえば、仏教は禅宗として日本文化に深く根付く一方、
茶道は日本人特有の「わび・さび」の精神を象徴するものとなりました。
太平洋を容易に越えることができなかった時代において、
極東に位置する日本は文化や文明の終着点としての役割を果たし、
多様な影響を受けながら独自の歴史と風土を形成していきます。
地理的な隔絶が異文化をゆるやかに取り入れる環境を生み出し、
時にはそれを再構築し、新たな価値を創出する力となったのです。
こうした特性は、建築や文学、日常の慣習に至るまで、
さまざまな形で現在にも反映されています。
ホモ・ファーベルの視点と日本のモノづくり
「ホモ・ファーベル」(ラテン語で「制作する人」)という言葉は、
人間が他の動物と区別される本質的な特徴を示すものです。
人間は道具を作り、それを使うことで文明を発展させてきました。
日本でも、モノづくりの始まりは、社会貢献という視点ではなく、
身近な人や自身を助けるための道具の製作からでした。
島国で培われた、他を慈しみ思いやる根源的な動機から生まれた創意工夫が、
自然や資源を最大限に活かす姿勢を生み出し、知恵を絞り続ける文化を育ててきました。
例えば、そば栽培では、そばの実を食べるだけでなく、その殻を家畜の餌や枕の詰め物に活用し、
快適な生活を創出するなど、日本人は自然への畏敬の念と共に、
あらゆる資源を余すことなく使い切るのです。
江戸時代と工芸の発展
平和が長く続いた江戸時代は、日本の工芸の発展に欠かせない時期でした。
戦乱が収まり、道具が「生きるための必需品」から「楽しむためのもの」へと変化しました。
日本刀は殺傷具としてではなく、
持ち主の美意識や品格を表す工芸品としての役割を担うようになりました。
着物もまた単に着るだけなら装飾はいりませんが、
色彩によって温かさや涼しげなどの感覚を表現し、擦れ感など、美しさが着たくさせる。
そうして四季折々の風情を楽しみ、心持ちや美しさの見方で豊かな生活を送りました。
この時代、五街道に沿った宿場町では、地元の工芸品が土産物として発展し、
全国で人々の生活を彩ったのです。
産業化と現代の課題
しかし、近代化が進むにつれ、人間中心のモノづくりは経済優先の大量生産へと移行していきます。
効率性が重視され、製品の背景にあった文化や物語が次第に失われていきました。
この「プロダクトアウト」の発想では、創造性よりも利益が最優先されるため、
自然や社会との関わりから切り離され薄れていきました。
2000年代に入るとマーケットをコントロールしていた問屋の衰退と共に、
経済はバランスを崩し、需要の低迷や量産化の困難さ、人材や後継者の不足、
生産基盤の減衰・深刻化、生活者のライフスタイル・価値観の変化と情報不足といった
あらゆる課題が山積していきます。
モノづくりの現場は大きな変革を迎え、職人文化の存続が危ぶまれる状況が生まれている今、
文化的価値を未来に引き継ぐ重要性が改めて問われています。
クラフティングジャパンの使命
クラフティングジャパンは、現在の産業中心の経済に対し、
文化的価値を未来へ引き継ぐ必要性を訴えています。
これからは、スクラップ&ビルドを繰り返す成長モデルではなく、
持続可能で熟成された経済への移行が求められる時期に差し掛かっているのではないでしょうか。
企業というものは、モノを造る、ビルを貸す、サービスを提供する、という各々の企業活動だけ
やっているのではなく、市場や地域自体を皆でどうしていくのかという大きな課題に
向き合うことで企業価値が示されていく時代になります。
その実現には、異業種間の協力や地域社会全体での問題意識の共有が欠かせません。
企業活動の枠を超え、市場や地域の未来を共に考える姿勢が、
これからの企業価値を高める鍵となります。
また、外向きのグローバル視点だけでなく、自国の文化に目を向け、
それを愛し、守ることが出発点であるべきです。
日本工芸と未来への展望
工芸は常に日本文化とともに歩み、発展してきました。
ただし、現代においてはその保護に留まらず、工芸が「なぜ大切なのか」を再認識し、
次世代に伝える仕組みを作る必要があります。
地域の歴史や特性を活かしながら、高度な技術を用いて現代生活に寄り添う工芸を
再び産業として確立することが課題です。
地域の特徴や歴史的な背景を持ち、専門的な知識や高度な技術を必要とするものが多く、
同じ言語を話していても、背景が違えば、言葉の解釈が変わっていき理解することは
容易ではありません。
これからは、モノづくりを単なるモノや技術としてではなく、
また産業自体を否定するのではなく、文化として次世代に伝えること。
工芸をアートで終わらせるのではなく、古くから受け継がれてきた技術や技法を用いて、
その時代に融合させ日本の文化や生活に根ざした製品を生産する産業にまで推し進めていく。
自然は、熟成や発酵、または代謝を繰り返し、時間をかけて成長していきます。
モノづくりを通した文化形成を、そうした長期的な視点に立って、
「変えるべきものと変えてはならないもの」を見つめ直す時期がきているのではないでしょうか。(了)
→過去を未来をつなげることがわかりやすいインフォグラフィックス、上記の要約メモ参考
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